角辻先生の後ろを歩くと

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Posted on 2013-02-21
角辻先生の後ろを歩くと

今回も以前の作文を紹介します。約10年前、看護大学医短部に在職中に、ある機関紙のために書いた文章です。若き日の胸の高ぶりが蘇ります。

大阪府立看護大学医療技術短期大学部　部長　北村　肇

　毎年５月初めの黄金週間に、角辻先生夫妻と中村先生夫妻（両先生は大学の先輩）と共に３組の夫婦で旅行に行き出して20年近くなります。３-４泊の旅行で、遠くはネパールやバンコック、屋久島、沖永良部、八丈島、隠岐、利尻などの日本近海の島々、近くは奈良・吉野までご一緒させて戴きました。３組の夫婦でいると、６人とも自制がある程度効いた上での我が儘が可能になり、心地よい緊張感を伴うリラックスの数日間を楽しむことができます。両ご夫妻は知識も興味の広さも我々より一枚上で、今でも教えて戴くことが多く、我々は今後も続けて戴きたく思っています。さて、この旅行中は当然乗り物にも乗りますが、観光地を６人で歩くことも多くなります。そんな時、角辻先生の後ろを歩いていると時々思い出すことがあります。ここではその昔話を紹介します。そう言えば、６人で長い間一緒にいて殆どのことを包み隠さず話してきたのに、この話はワイフにも両ご夫妻にも話した記憶はありません。

　約20年前、僕は成人病センターにいて研究の仕事を楽しんでいました。他に外来診療や付属看護学院の非常勤講師もやっていた筈ですが，頭は研究がほとんどを占めていました。その看護学院の非常勤講師とは、内科の一部であるアレルギー・膠原病を90分×４回で講義、というものできちんと教えるには時間的にはとても無理なスケジュールでした。が、それはそれなりに抗体の構造からSLEの症状・治療まで噛み砕いて講義しました。その頃は僕もまだ若く、それほど禿げてもいなかったためか、講義した学生の中に僕のファンだと言って部屋に遊びに来てくれる看護学生が何人かいました。３-５人のグループで来ることが多かったのですが、一人での場合もありました。そんな、僕にとっては“古き良き時代”の、ある土曜日の午後のことです。一人の学生が部屋に来ました。部屋と言っても大きな研究室で、他の医者や実験助手がまだ仕事をしています。学生は看護学院の２年生、なかなかの可愛いコちゃんで、それまでにも２-３度遊びに来ていました。中年（40歳を越したところ）の僕のところへ19才か20才のギャルが一人で遊びに来てくれることを、僕は得意に感じていました。この学生とこの日研究室で何を話したのか全く覚えていません。覚えているのは、二人で街へ出て歩き、喫茶店でお茶を飲んだことです。場所は心斎橋、どこかのビルの２階の喫茶店へ入りました。今と違って学生の話に自分を合わすのに苦労はしませんでした。さて、喫茶店での話も一段落し、「じゃあ帰ろか？」と言って立ち上がりました。レジを済ませ、２階から１階へ階段を下りることになりました。このビルの１階ロビーは吹き抜けになっており、階段の巾は広く、下りる方向に向かって左は壁、右は大きな吹き抜け空間で、階段の中程に踊場があり、そこからは90度右に曲がって更に下りると１階のフロア、の構造になっていました。これを、学生を僕の左にして、二人並んでゆっくり下り出しました。１段、２段、３段……ふと気が付くとちょうど我々の正面からも階段を踊場に向かって下りて来る連中がいるではありませんか。見ると我々と同じで、中年の男と若い女の子です。“このオッサンもやるやないの……”と思ったのもつかの間、おかしなことに気が付きました。階段を下りてくる男の脚がなんとも格好悪いのです。一昔前の日本の男の典型であるガニマタです。咄嗟に思いました“せっかく可愛い女の子を連れていても、そんなブサイクな脚では……”。ここで優越感を持った僕は、更に数段階段を下りてこの格好悪い男をよーく見てやりました。すると……見覚えのあるシャツとジャケット、見慣れたショルダーバッグのオッサンです。なんと！それは紛れもなく自分でした。正面は鏡だったのです。さっき見たブサイクなガニマタのオッサンの正体は自分……。僕はあまりのショックに打ちのめされて足がもつれ、階段を踏み外しそうになりました。この日以来、僕は脚に自信がありません。

　角辻先生の後ろから歩くと、否応なしに先生の見事なガニマタが目に入ります。するとこの話を思い出し、ほんの暫くの間は、外を向く足先を少しは内向きにしようとする僕です。まるで、還暦を過ぎても、脚の格好を矯正し得ると信じているみたいに……。

（この文を書き終えて、ふと心配が生じました。ガニマタって差別用語じゃないんでしょうねぇ。どなたか知りませんか？）

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